28歳なりに人生を

0時をもって28歳になる。28歳て。人生に対する解像度が21歳くらいから上がっていない。視力が0.1もないのに、眼鏡を外したまま、高速道路で車を転がしているような感覚である。いつ事故ってもおかしくはないのだが、周りに合わせてスピードを出していればそれなりに走れているといった具合。

この文章が投稿されているころには、きっとわたしは…………………………へべれけになっていることでしょう。なぜなら、すでにお酒を飲んでいるからです。ウイスキーの、ちょっと高いやつ。ちょっとというか、だいぶ背伸びして買ったウイスキー。おいしい。香りがすんってなってて、舌がおいしくなる。味がおいしい、というよりは舌がおいしくなる。分かりますか？　この違いが。舌自体がウイスキーになるんです。

「トリスとかブラックニッカとは違うんだなあ！」と思ってはいるが、高いお酒は飲んでいて不安になる。明日以降もきっと、安ウイスキーを飲んで正気を保つ日々が続くのであろう。

28歳前日のお昼から飲んでいるこのお酒は自分にとってのご褒美です。「27歳のうちにいろいろ片付けるぞ」と奮起し、溜まっていた日常のタスクを全て終わらせた。家の契約も結局更新して、10万円くらい飛んだ。もうこの部屋には住めねえと考えていたのだが、多忙と自分の怠惰ゆえに家探しを全く行えず、ぎりぎりまで粘ったが仕方なく再契約した。不動産屋が「あのう、家がですね」と電話をかけてきた時の声音をよく覚えている。

「家がなんでしたでしょうか」
「契約が切れててですね」
「あ、すみません」
「はい、なので……いま”住んじゃいけない状態”ではあるんです」
「”住んじゃいけない状態”」
「はい。なんですが、いま、住まれてますよね？」
「すいません」
「いえ、契約の状況確認してなかったこちらもなので……”住んじゃいけない状態”を”住んでいい状態”に戻しますか？」

そんな質問聞いたことねえよ、と笑いかけたが催促の手紙を見なかったことにしてテレビの裏に放り込んだ自分が悪いので、平謝りしてお金を持っていく日時を定めたのであった。

そういうわけで、誕生日前日の日曜日にお金を失い、浴びるようにひとりでお酒を飲んでいるさびしい27歳男性が完成しています。今年の初めに好きな人にフラれて落ち込んでいるところ、友人の一人が「28歳になるまで、めっちゃ落ち込んだ方がいいよ」と謎の助言をくれたのだが、結果的にその通りになった。厳密には、割と立ち直ってきて、心の鎧も取り戻してきて、もう絶対大丈夫、また生活の前線に戻らなくては……と意思を固くしたところで、鎧が剥がれているところに弓がブッ刺さったりしている。

この間、キッチンで号泣しすぎてうずくまってしまい、コンロで前髪が軽く燃えた。Apple Musicの自動再生でスピッツの「さびしくなかった」が流れてきたのである。

さびしくなかった／君に会うまでは／ひとりで食事する時も／ひとりで灯り消す時も
いつか失う日が／来るのだとしても／優しくなる／きらめいて見苦しく
生まれ変わる／これほどまで容易く

なにこの歌詞。すごくない？　やわやわハートにゴツい鎧を着せたのに、鎧通しを携えた草野マサムネが全関節の隙間部分に刃を突き立ててきておしまいになってしまった。同じくらい泣ける曲あるかな……と自分の弱点を探る自傷的な行為をしていたのだけれど、どれもあまり刺さらない。諦めかけたのだが、最後の最後に流れてきた曲でまた泣いた。

困らせてくれてありがとう／今となれば憎しみも
怒らせてくれてありがとう／好きってわけじゃないが
何もかも懐かしい

『ナマで踊ろう』収録の「好きではないけど懐かしい」。坂本慎太郎、天才。前髪の先が縮れたまま、ぐすんぐすん言いながら鶏肉をひっくり返した。火が通り過ぎて片方がずいぶん黒くなっていた。火を止める。洗面台に行って、終わった前髪をいったん自分で切る。焦げて少し苦い鶏肉を食べながら、「”失恋して自分で前髪を切る”の実績を違った形でアンロックしてしまった」と後悔。ようやくもう大丈夫になったので一安心。

少しくらい仕事の話も。受けていたお仕事をいったん止めました。先方的にも自分的にもちょうど目処がついたところだったので、「またなんかあったら連絡くださ〜い」くらいで気持ち良く終われた（と思う）。また条件が合致するところで何かやろうか……と思っていたのだけれど、なんか、本業の方で急に引き上げてもらってしまったので、忙しくなりそう。7月から役職が「部長」になるらしい。ずっとウケている。ほんとうにあたしでいいの？って感じ。ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし……

あんまり社会が分かっていないので、前に役職みたいなものがついた時もふわふわしていたし、今回もふわふわしている。のだけれど、こないだたまたまこち亀を読んでいたら、両さんが「ぶ、部長〜ッ」っつって大原部長に怒られていて、震えた。え、おれ大原部長と同じ呼ばれ方されんの？　でも大原部長は正確には巡査部長らしい。警察の組織図に詳しくなった。

tofubeatsは『LONELY NIGHTS』で「Only 27 まだ踊り足りない」と歌い上げていたけれど、そもそも自分はまだ踊れてすらいない気がする。27歳の目標は「ダンスフロアに立つ」。とりあえず踊っとけ、でいろんなことをやって、その上で「まだ踊り足りない」と思えたらラッキー。

27歳の目標をこのように書いたので、自己採点。いい感じだったんじゃないでしょうか。ダンスフロアに立たなきゃ分からない景色も知ったし、けっこう踊れて、楽しかった。踊らなきゃ感じなかったはずの苦しみみたいなものがあったのも確かだけど、でもこういうのって、いつかいい思い出になるんですよね？　ならなきゃ困るな。踊る阿呆に見る阿呆、の前者になれました。

28歳の目標は「人生への解像度を上げて、周りに得してもらう」です。28歳なりに人生をやる。たぶん、自分のためだとあんまり頑張れないから、周りの人に得してもらえるように頑張ります。利他の心ってやつですね。眠い。寝ます。