吉田健一『酒の味その他』|飲むべき形で飲む:飲み会を最高にするための覚書

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今までのうちで或る時飲んだ酒が一番旨かったならば、それはその時だけ酒を飲むべき形で飲んだのであって、酒はもしそれが酒の名を価するものならばいつでも飲み方に気をつけるだけで何ともかともという味がするようにできている。その何ともかともを言い換えれば、何とも旨いということで、それは一番旨いということであり、酒はいつでも今が一番旨いと思って飲むのでなければ嘘である。又無理にそう思わなくてもそういう風に旨いのでなければならない。 / 『酒の味その他』吉田健一

中公文庫『私の食物誌』に収録されている『酒の味その他』は、自分にとって飲酒の教科書のようなものなので、折に触れて読み返す。質の悪い酒を鯨飲し地獄を見た次の日に目を通すと、いつも「飲むべき形」について熟考させられる。

飲むべき形」、つまりは飲酒の型のようなものは確かにある気がする。例えばそれは飲み/食べ合わせ……肉には赤ワイン、魚には白ワイン……といったものから、酒を飲む「場」やマインドセットみたいなところまで含まれるかもしれない。そういった形を整えた上で、「今が一番旨いと思って」お酒を飲むこと。それが肝要。

一回一回の飲酒を最高にするんだぞ」、そういう強い気持ちがあれば店でのメニュー選びにも自然と力が入ろうもの。家で一人で酒を飲む時も……つまり毎晩だが、本気で晩ご飯の品目を選定し、間違っても酒に失礼のないようにセッティングを行うべきだ。

ただ、実際問題、いつでも万全な状態で「形」を整えられるわけではない。ありがたいことに急な飲み会の誘いが入ったり、「お酒は……飲まない……感じです、かね? あ、飲みます? ですよねえ! 飲みますか!」みたいなシチュエーションにも往々にして遭遇する。そういう時はどうしよう?

又更に考えるならば、もし酒を飲むのに条件があってそれが揃わなくても、ここにもし一人の酒に馴れた人間がいたとするならばその人間は酒に出会った途端に自然の勢で必要な条件を揃える筈であり、それならば酒はいつでも旨いということになる

教科書には、「酒飲みならいつなん時でも”飲むべき形”に必要な条件を自然に揃えられるようにしろ」「そしたら酒なんかいつ飲んでも美味いから」なる回答が掲載されているが、実際問題これは難しい。

もちろん、「自然の勢で必要な条件を揃える」ための努力は行なっていきたいが、結局は渋川剛気が開眼したような「真の護身」……(形がうまく整えられなさそうな)ヤバ飲み会には行かない/行けないという選択・状況を作り出すのが良いのかと思う。悪い酒に出会わない・出会えない人間になろう。

酒の量・時間について

少しばかり飲むというの程つまらないことはなくて、お銚子二本で今日は帰りましょうなどという情ないことならば寄らずに真直ぐに家に帰った方が体の為にもなる。

「少しばかり飲む」とは量の話ではなく時間の話だと思っている。一時間で解散しますか、みたいなお酒は確かに物足りない。

個人的には、飲み会は「一軒め:二時間、二軒目:一時間〜一時間半」程度がちょうどいいなという具合。三軒目以降は行くとロクなことにならないが、天文学的な確率で最高の夜になるので、いつも可能性にベットしてしまう。なぜかAll-inしか選択肢がないと勘違いしていたが、負けそうな時は素直にフォールドすればいい。

尤も、汽車が出る前にもう一本飲めるだろうかと思って頼む酒は旨い。これは旨い。

この本が著されたのは多分60年代後半とか70年代前半だと思うが、その時代から終電ギリギリに飲む酒の訳のわからん美味さは変わらないらしい。とはいえ、「時間ギリギリなんであともう一杯」は麻薬のようなもので、どうせ終電を逃し、歩いて帰る途中に力尽きたりするだけなので、今後は控えたい。

 

酒に失礼のないように

[…]今日の時代でも折角酒というものがあるのにそれを飲んで悪酔いをして裸踊りをするのは損である。本当のことを言うと、酒を飲んで今日やる大概のことは損であって、大きな声を出すのにも素面の方がいいことは各種の声楽家の例を見ても明かであり、同様の悪口や世相の弾劾は、その程度の愚劣な頭の使い方をするのに酒を飲むのは勿体無い。

「酒を飲まなきゃ言えないようなことなんてくだらない」的なことをハライチの岩井さんが言っていたけど、全き真実である。とにかく、「悪酔いをすること」「悪口ばかりの飲み会にすること」は損だということだけは肝に命じ、酒に失礼のないようにしたい。

 

十二月は忘年会と称していろんな人と酒宴をひらく予定(といっても少人数だったり遠隔だったり、気を使いつつです)なので、「飲むべき形」で飲んでいこうと思う。お酒を飲む皆さん、その時一番旨い酒を飲みましょう。最高のお酒にしていきましょう。

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