時々思い出して笑ってしまったり、妙に印象に残っている言葉について3つほど。Twitterに書くほど短くはなく、かといって特定の人を呼び出したり電話したりしてまで話さなければいけないわけでもないが、誰かに聞いてほしい話シリーズ。
夜のコンセント童貞
学生の時分に、友人の家に泊まった。うとうとしてきたので眠ることになる。友人が用意してくれた布団に入ると、電気が消えた。翌日に予定があったので、アラームをセットしようとスマホを開く。が、バッテリーが切れていた。
「ごめん、充電させてくれない?」と問うと、「お前が寝てる枕元にコンセントあるよ」と教えてくれる。礼を言って、充電器のプラグをコンセントに挿そうとするのだが、電気が消えているのでうまくセットできない。四苦八苦している自分を見て、友人は「『童貞、はじめての実践』みたいになってる」と笑った。「『なかなか挿れられないなあ』じゃないんだよ!!」と返しながらもがちゃがちゃやるが、本当に挿さらない。
「ほんとに挿さんないや……電気点けてほしい……」とお願いすると、友人は「めんどくせっ!」と言いながらも布団から立ち上がり、電気のスイッチを押してくれる。部屋が明るくなる。「よしこれで充電できるぞ……」と思ったら、自分がプラグを挿そうとしていたのは、通常のコンセントではなく、テレビ用コンセントだった。これではAタイプのプラグが挿さるはずもない。
「ごめん、テレビ用のコンセントに挿そうとしてたわ」と謝ると、友人は布団の上に倒れこみ、「『違う穴』じゃん!!!!」とげらげら笑いはじめた。ひどく品性の無い笑いだなと思いながらも、自分も布団を叩いて笑った。フリ・オチの何もかもが完璧すぎた。
笑いすぎて目が覚めたので、そのまま深夜のコンビニにお酒を買いに行った。
眠眠打破
前職の同期とはよく麻雀を打った。金曜日の業務が終わると、共謀したかのようにいそいそとオフィスを出て、そのまま雀荘へ向かう。たいてい、金曜の夜から土曜の朝までぶっ続けで打っていた。
始まってからしばらくは仕事の愚痴やらで盛り上がるのだが、夜半過ぎには眠くて仕方がなくなる。全員押し黙りながらも、それでも指と頭は動く。麻雀とはかくも恐ろしい遊戯なのである。
そんなこんなで朝方までポンやらチーやらロンやらツモやら言っていたのだが、別卓でも男性たちが鎬を削っていた。みな真剣な様子で牌をじゃらじゃらやっている。自分たちの卓はもうみんな「眠い」「帰りたい」「助けてくれ」といった具合だったが、その男性たちの卓は「これからが本番」といった雰囲気だった。
ここが勝負どころと見たのか、男性たちの中のひとりが「すみませェん!」と大声で店員を呼ぶ。かなり大きな声だったので、うつらうつらしていた我々の卓の全員がその男性に目を向けた。駆け寄ってくる店員に対して、男性は言った。
「すみませェん!!!!!! 眠眠打破くださァい!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あまりに堂々とした要求だったので、その時点で面白かったのだが、前職同期の誰かがぼそっと言った「そんな元気やったら眠眠打破絶対要らんやろ」のツッコミで感情が爆発した。他の同期の口も「眠眠打破はおれたちみたいなやつが飲むねん」「そんな元気やのに何を打破することあんねん」などと止まらない。結局、麻雀が打てないくらい抱腹絶倒してしまった。
本来、雀荘で大声を上げるのはマナー違反なのだが、特に注意されることもなかった。雀荘のみなさん、あの時はすみませんでした。
足の長い女
電車に乗る。混んでいるのかしらと思っていたが、車内には全員が座ってもぽつぽつと席が余る程度の人数しか居なかった。
自分も腰を下ろす。しばらくすると、代々木に停車した。ドアが開き、女性がふたり乗ってくる。ひとりは澄んだ夏色のワンピースを着ていた。もうひとりは白いTシャツに青いジーンズを合わせていたのだが、この女性の足がとても長い。身長は160cm後半といったところだが、とにかく腰の位置が高かった。自分の足がローテーブルの脚部程度の長さしかないので、思わず比較してしまう。
ふたりは友人同士らしく、なにか話しながら席を探していた。たまたま自分の両サイドが空席だったので、右側にずれこみ、空席が連なるように調整する。ふたりから「ありがとうございます」とお礼を言われた。ぼくの先隣に夏色の女性、隣に足の長い女性が座る形になる。
彼女たちが話しているのは共通の友人の話らしい。盗み聞きをする趣味もないので、しずしずと本を読む……のだが、隣の女性が何かと足を組み替えるのが気になる。まるで自分の長い足を扱いかねているかのように、右足を上にしてみたり、左足を上にしてみたり、両足を通路に少し投げ出してみたりする。もしかして自分の座る位置がまずく、女性側が狭くなっているのかしらと思ってさらにずれてみたが、なおも女性の足は安定しない。
そうこうしていると、上機嫌で話していた夏色の女性が、「ちょっとお!」と声をあげた。
「足をバタバタバタバタして! ほんとうに足の長い女ねえ! キャタッピラーにでもしなさいよお!」
あまりに急な言葉だったので、妙に耳に残った。彼女が言った「キャタッピラー」とは、おそらく戦車などに付いているキャタピラのことだろう。けれど、アクセントが刃牙の「グラップラー」のそれだったので、おかしくなる。なぜ足が長いとキャタピラにしなければならないのか。そしてなぜキャタピラのアクセントがグラップラーと同じなのか。目元を抑える振りをして、マスクの下で少しにやにやする。
ジーンズの女性が「そうだね、キャタピラにしなきゃね」と答える。電車が市ヶ谷に着くと、ふたりは降りていった。市ヶ谷には長い足をキャタピラに取り替えられる施設がある、らしい。施設から出てきたジーンズの女性が、キュラキュラと音を立てながら防衛省の近くを進んでいく姿を想像した。
▼Twitterに書くほど短くはなく、かといって特定の人を呼び出したり電話したりしてまで話さなければいけないわけでもないが、誰かに聞いてほしい話シリーズ1作目。
Thumbnail:眠眠打破 ブランドサイト|常盤薬品工業
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