人の顔を見てBGMを変えるな

雑記

用向きがあったので、降りたことのない駅で下車する。事が済んだのは昼時だった。近くにあったタイ料理店に入る。L字型のカウンターに5席ほどが設えられていた。厨房に立っていたのは女性で、L字の長辺の奥に男性がひとり座っていた。短辺の方に同伴者と座る。

店内にファンキーモンキーベイビーズの曲が流れていることには入店当初から気付いていた。「ファンモンじゃん」と口には出さなかったが、「ファンモンじゃん」と思いながら、注文する。オーダーを受けた女性は「は〜い」と答え、オーダー表にボールペンでちゃちゃっと注文を書き入れ、そしてオーディオ機器をがちゃがちゃっといじってBGMを変えてから、料理を作りはじめた。

頼んだのは確かガパオライスだった。有無を言わせず美味しかった。水を一杯もらって、支払いを済ませて、店を出る。しばらく散歩だのなんだのし、最寄駅に続く電車に乗り、駅前の書店の通路を一筆書きのようにすべて巡って、何も買わず家に帰った。シャワーを浴び、かんたんに晩食を済まし、床に就いた頃にようやく、「あれっなんでBGM変えられたんだろう」と猛烈に不安になったのである。そこからはまんじりともせず、ファンモンの曲をあのタイミングで変えられた理由を考えるだけの時間になった。

「一刻も早くガパオを準備して出せ」だなんて爪の先ほども考えていない。が、なぜオーダーが来たあのタイミングで曲を……なぜ料理を準備する前にオーディオ機器を触る必要が……と思索が袋小路に入っていく。店員さんに「この男にファンモンの良さは分かるまい」と思われていた可能性がある。『この男はメガネをかけているし(かけている)、学生時代に野球部かサッカー部かバスケ部かテニス部かバレー部じゃなかっただろうし(幽霊陸上部だった)、体育祭も文化祭も楽しめなかっただろうし(楽しめなかった)、シャトルラン限界まで頑張れなさそうだし(これは頑張ってた)、教室で誕生日の人の顔にパイ投げてるのとか見て嫌そうな顔してただろうし(ちょっとしてた)、好きな季節聞かれて「秋」とか「冬」とか言いそうだし(秋)、バーベキュー嫌いそうだし(一言では言い表せない感情を抱いている)、「ジャンプ以外にも漫画雑誌はあるのにね」みたいな顔してるけどちゃんとジャンプの漫画全部読んでそうだし(ジャンプ全部読んでた)、絶対にファンキーモンキーベイビーズの良さに気付いていないであろう、こんな男にファンモンを聴かせるのはもったいない、かと言ってこの男に合う曲などひとつもないので隣の方の趣味に合いそうなこの音楽を……』の時間だったのではないかと考えると背筋が凍る。自分、ちゃんと世代です。「あとひとつ」とか、歌えるんです。

こういう「自分が店内に入るとかかっている音楽が変わる現象」がかなり苦手だ。「注意人物が来たので総員気を引き締めよ」用のBGMがあると目にしたことがあるためである。

スーパーに入った瞬間にBGMが変わろうものなら、「あ、おれは万引き犯だと思われている」とわんわん泣き出しそうになる。そうなると、行動のひとつひとつが万引き犯じみてくる。一度取った品物を棚に返し、店の奥にある精肉コーナーから店の入り口にある野菜コーナーに戻り、客がひとりも居ない海苔ばかりが並ぶ薄暗く細い通路に飛び込む。誰が万引きGメンかを特定するためである。もちろん万引きなどするはずもないのだが、誰に見られているかをはっきりさせないと、怖くて仕方ない。ただ、相手もプロ、こちらは万引きの素人なので、一度も見破れたことはない。「やばい奴が来たぞ」用BGMとして採用されているあいみょんの声が朗々と店内に響くのみだった。繰り返しになるけれど、万引きなんて絶対にしません。為念。

国にはぜひ突然店のBGMを変える行為に厳罰を与える法律を作ってほしい。最悪、中野区の条例でも大丈夫です。人の顔を見てBGMを変えるな。「BGMを変えるな」と書くと、『カメラを止めるな!』の質の低いパロディみたいだ。そういえば、フランス版の”カメ止め”リメイク、『キャメラを止めるな!』は面白いのかしら。原題を見たら『Coupez!』で、なんのことやらと思ったけど、フランス語で「カット」を意味することばらしい。真逆や〜ん?

Thumbnail:dreamusic(Youtube)

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