NetflixのInterior Design Masters、「僕のスタイルは〜」「私の色を出したいの〜」みたいなデザイナーたちが発注を無視して自分の色を出そうとして審査員にボコられる番組なので、色んな人が見た方がいいと思う 本当に色んな人が pic.twitter.com/nBoZu1AMtk
— 渡良瀬ニュータウン (@cqhack) January 6, 2020
NetflixのInterior Design Mastersが面白かった。何が面白かったかというと、Tweetでも記したように、デザイナー・クリエイターのエゴがボコボコにされる瞬間を目の当たりにできる点である。怖いもの見たさみたいなものですね。
(ネタバレは極力しないようにしています)
概要・番組の流れ
番組の流れはこんな感じ。
- 依頼を受けてインテリアデザインを行おうとする。
- 発注意図を無視して自分の好みのデザインをほどこす
- チームメンバーのデザインが好みではないので陰口を言う
- 作業の見積もりが甘くて納期がヤバくなる
- なんとか終わらせる
- 審査員に鬼詰めされる(「チームプレイってわかる?」「なんでこういうデザインにしたの?なんで?」「依頼人のこと考えたの?」「なにあの色合い?」「実用的じゃないよね?」……)
- 各エピソードで1人脱落
- 最後まで残ることができた参加者には大型案件(ホテルのバーのデザイン)を発注
参加者10人が1話ごとに1人脱落していくシステムなので、インテリア・デザイン版の「笑けずり」だと考えていただければ結構です。全9話、1つのエピソードは45分程度。
たいていのエピソードでは参加者はチームを組まされ、大学寮やモデルハウスなどをリノベーションする。このチーム制、というのが肝。とにかく全ッッッ然、デザイナーたちの意見が合わないのである。
リビングがサンセット・ピンク、子供部屋は真っ青、寝室の壁紙はボタニカルとかはザラ。チーム内で大工を共有しなければならないのに、その貴重なリソースを独占する参加者も居る。また、毎週1人だけ脱落していくシステムなので、「チームが負けても僕が勝てればいい」みたいなことを言う人も居る(主にフランク)。
そして審査員がそのデザインの縺れや依頼人の要望を無視したセルフィッシュなデザインをしっかり詰める。とはいえ、デザインをこき下すだけではなく、良いところは褒める。「ここはよかった」が1だとしたら、「なんでこうしたの?マジでなに?」が5くらいのものです。
審査員に詰められる用の部屋とソファが存在するのだが、参加者全員が「あのソファに座りたくない」とごちるのも分かるくらい、的確に問題点を指摘される。ぼくは共感性羞恥持ちの気があるので、デザイナーたちが「えっと……その……」と言い淀むのを観てウッッとなった。
▼フラスコ飯店読んでね
登場人物
ファーン(Fearne Cotton)
番組のMC。参加者が頑張っている作業場に入るなり「きったないねー!?!?!?!?」「散らかってるねー!?!?!?」と言い放つ剛の者(字幕でしか観ていないのでニュアンスが違うかも)。インテリアに関してアドバイスをする場面はあまりない。ファッションがすてき。
ミシェル(Michelle Ogundehin)
雑誌『Elle』の(元?)編集者で、インテリアデザインの権威らしい。ソファーに座った参加者を鋭く詰める審査員。部屋に入った瞬間の顔でなんとなく評価が分かるが、基本的にどの部屋も褒めから入る。審査の際には何度も重要なポイントを参加者に伝え続けた。
Remember that this is the client’s home and not your own.
(あなたの家じゃない、依頼人の家だってことを覚えておいて)
フランク(Frank Newbold)
一番と言っていいほど番組にフューチャーされた参加者。その原因は恐らくその性格。とにかくチームプレイができないため、度々敗者のソファーに座る羽目に。見積もりも甘く、「照明にめちゃめちゃお金かけたのに綺麗にハマんないや」「注文したカーテンが届かないや」「発注したリノリウムの寸法間違えてたや」など枚挙にいとまがない。
でも個人的に、彼のデザインとか色使いはすごく好みだし、デザインに対する向き合い方や情熱を感じることが多かった。また、参加者の中ではいちばん自分のスタイルを折っても依頼人のことを考えていた気がする。間違いなく主人公。
個人的に好きだったのは、彼がスケートボード店をリノベーションする時にファーンに語ったことば。
When I first saw the brief,I was a little bit like,”oh my god!”
(最初に要望を見て、ヤバいと思ったんだ)
This kind of raw woodcut’s not really my thing…but I’ve done it because it’s a skateboard shop, you know?
(こんな生の木のデザインは自分のスタイルじゃない……でもスケートボードショップだからやった)
I know nothing about skateboarding, so it’s totally out of my comfort zone.
(スケボーについてだって何も知らない、だからすごく挑戦的なことをやってる)
But, I want to be … a very good interior designer,
(でもなりたいんだよ、良いインテリアデザイナーに)
ジュー(Ju DePaula)
自分のスタイルがはっきりしており、登場当初は「花柄!植物!パステルカラー!私の頭の中を見て!!!!!」と圧が非常に強い参加者だった。ただミシェルの詰めで丸くなり、調和を保ちながらも自分のスタイルも失わないすてきなデザインをほどこすように。
また、チームで働く際もうまく立ち回っていたほか、作業を遅滞させることなくスマートに終わらせていたのも印象的。大事ですよね本当……納期……
キャシー(Cassie Nicholas)
ジューと同じく自分の好みが強い参加者。骨董商という職業柄か、どんな依頼にも必ずアンティーク調を取り入れる。フランクとは特に意見が合わず、彼はキャシーとの関係を「ぼくが空を青と言えば、彼女はピンクと言う」とまで表現している。
自分の好みを通すストロングスタイルが目立ち、理髪店に鹿の骨(?)みたいなインテリアを飾りだした時は冷や冷やしたが、ミシェルは特に突っ込まなかった。海外では普通なの?
カイル(Kyle Broughton-Frew)
冷静沈着な常識人。大工の仕事の一部も自分で行えるため、チームメンバーからの信頼も厚く、あのフランクにすら「カイルは実用的。役に立つ」と言われている。あのフランクにすら!!!!
壁面収納の机など、実用と高度なデザイン性を両立させた仕事が多かった印象。時折不運に見舞われながらも、やることはしっかりやる男だった、
クセが強いチームメンバーに挟まれた際は二者間の折衝もしていたらしく、「これじゃあデザイナーじゃなくて人事部だよ……」と愚痴ることも。偉すぎる……この番組で一番の推しです。
ジェローム(Jerome Gardener)
インタビューでは自信家な一面が目立ったが、いざデザインとなるとあまり表に出てこない。
よく単色で部屋をまとめていた。ぼくは好きだけど、大学寮が黒一色ってどうなのさ……と思いもする。
また、インテリア・デザインというよりは「買い物上手」な一面が目立つ点を度々ミシェルに指摘される。「どの店からこの棚が来たか分かるわ」と審査員にも苦言を呈されるなどしていた。かわいそう。
ニッキー(Nicki Bamford-Bowes)
意欲的なデザインが目立つ参加者。毛糸店の壁を大量の筒で埋めてみたり、部屋全体を可動式の収納にしてみようとしたり、常に独創的なアイデアが溢れ出ていた。
一方で、大工のリソース独占・見積もりの甘さが目立ち、常に納期がギリギリになるタイプだった。周りにこういう人居る……締め切りという概念が致命的に苦手なのかもしれない。
テリアン(Terian Tilston)
ビタミンカラーを多用するデザイナー。部屋全体がオレンジだったりピンクだったりする。ほどこすデザイン通りの活発的な性格だが、フランクにこき下ろされるなどしていた。フランクの言い方が悪い。
オレンジに塗装された照明とか、小物はすてきだな〜と思っていたけれど、部屋全体がああもまあ元気が出る色だとちょっと……布団とか被っちゃいたくなる。
ヴェリティー(Verity Coleman)
退役軍人のデザイナー。大工たちに指示を出す姿が確かにきびきびしていた。デザインは……ちょっとあんまり覚えていない。
トリッシュ(Trish Coggans)
参加者の中では最高齢。楽しそうにデザインをしていたが、「思ってたペンキの色と違う……ちょっと、ペンキ貸してくれない?」など、若干チームメンバーを戸惑わせる行動もあった。インタビューで映し出されていた自宅の映像がすごくすてきだった。あんな家住みたいな〜。
ジム(Jim Biddulph)
おとなしい顔をしてめちゃめちゃ特徴的なデザインをするので面食らった。 ほとんどアート。
ネタバレなし感想|絶対的な依頼人、クリエイターのエゴ
重要なポイントはミシェルが繰り返したこの言葉に凝縮されている。
Remember that this is the client’s home and not your own.
(あなたの家じゃない、依頼人の家だってことを覚えておいて)
これはもう本当にその通りで、彼ら/彼女らが求められている「デザイン」は彼ら/彼女らではなく依頼人のために行うものである。そこに「ぼく/わたしが好きだから」という、自分の/デザイナー・クリエイターとしてのエゴが介入する余地はない。自分の好みを相手の利益のために捨てられる? その作業はあなたがやりたいこと? 依頼人のためにやっていること? この問いはあらゆる職業に敷衍できる。おっそろしいけど当たり前の話。
そういう点で、(薄っぺらいけど)デザイナー・クリエイターって意味がわからないほどすごく難しい仕事を要求されている。「良さ」みたいな主観は数値化できない。だからこそブランディングが重要だと感じた。自分のスタイルを好んでもらえればいいってことですからね。その境地まで至るのが大変だってことも重々承知していますが。
その一方で、依頼人の要望を慮って「らしさ」を抑えたフランクに対しての、「自分らしさを切り離すな、デザインと両立できるはずだ。”らしさ”を賢く使え」(”Don’t lose touch with Frank,but use Frank wisely!”)の言葉も刺さった。正解ばっかり言うな〜〜〜〜〜〜この番組は。誰でもできる仕事に自分のスタイルを/自分のスタイルを相手に合わせて、ですね。
クリエイティブな仕事に就いている、あるいは就きたいひとはぜひ観てみると良いと思います。
コメント