危ういバランスで保たれている「生活」めいたものに、ほんのかすかに触れただけで傾ぐ秤のようなイメージを持っている。均衡を崩さないよう、片端に錘を乗せてはもう一方にも乗せ、また乗せてはもう一方にも乗せして、やりくりするもの。感情が片方に集中すると破綻してしまうのがしち面倒である。穏やかに暮らしたくはあるが、いっぱい笑ってしまったら、どこかでいっぱい泣いた方がうまくいったりする謎のシステムが働いている気がする。
その点、ロロ「BGM」はすごくバランスが取れていた。ごく簡単に言うと笑えたし、泣けた。大笑いしながら号泣したシーンもあった。もう自分でも情緒がよくわからない。演劇を見にいくのがずいぶんと久しぶりのことなので、生の人間の躍動感に圧倒されたのもある。演劇ってすごいね……人間ってすごい……。
会場はKAAT(神奈川芸術劇場)。待ち合わせまでに時間があったので、近くの海を見たりした。大桟橋を見て友人が「エヴァンゲリオンの街じゃん」と言っていたのが面白かった。
▲確かに使徒と戦うために作られた計画都市感がある。引用:横浜観光事務局
横浜は至る所に「開港」や「貿易」と書いてあるのが好き。普段住んでいる地域ではあまり見ない言葉、テンション上がる。「横浜水上警察署」とか、字面だけ見るとすごくいい。み、水の上に実力組織が……!? ってなる。
「BGM」の話に戻る。以下あらすじの引用。
時はとあるアイドルグループの解散が発表された2016年。泡之介とBBQは、学生時代の友人・午前二時の結婚式に向かうため、車で常磐自動車道を下っていく。目的地は仙台。10年前に同じく仙台を目指して3人で旅をした4日間を、10分の演劇にして余興で披露する予定だ。
東京から守谷サービスエリア、会津若松、いわき、松島、石巻を巡る2016年の2人の旅路は2006年の3人の旅路と重なり、行ったり来たりを繰り返す。存在を忘れられがちな女や、占い師、青春18きっぷのキャッチコピーを集めてレコードにする少年、自身の骨を集める恐竜、死んだ彼氏の記憶をリサイクルショップから集める女、午前二時の元カレら個性的な登場人物が、結婚式に向かう2人の祝祭ムードに満ちた道中を彩る。/ ロロ BGM
「BGM」は再演とのこと。誘ってくれた友人は初演も観たらしいが、「全然違った」とのことでした。舞台装置も音楽も演出もキャストも異なる様子。
以下のパラグラフからは劇の内容に触れるので、障りがあるようならタブを閉じてください。
笑ったし泣いたと書いたけど「どのシーンで?」と問われたら、恐ろしいことに劇中ずっと笑ってるか泣いてるかしてたかもしれない。冒頭、車内で泡之助(演:亀島一徳 長井短さんとの交換ノートほんとうに大好きです)がBBQ(演:福原冠)に家族の食事での思い出を語っているシーンでも、「ディ、ディティール〜〜!!!!!」と思ってしまってちょっと涙ぐんでいた。エピソードが活き活きしている。
2006年/2016年の旅が多重露光のように交わって展開されていくわけだけど、この10年が合流する地点があると――つまり午前二時(演:島田桃子)や繭子(演:岩本えり)と綾月希海(演:望月綾乃)が舞台上に一緒に居たりすると――それだけで泣ける。こういう演出が好きすぎ侍なので、滂沱の涙を流しました。『校舎、ナイトクルージング』でも同じような涙を流していた記憶がある。
劇中に使われている音楽もすごく好き。転調が好きすぎ侍でもあるので、「愛と言え」でも泣いた。武士(もののふ)の涙はかくも軽い。
▲ほんでMVちょっとこわいな
「どこだっていい」もいい曲。「愛するだけでいいだろう?」「ぼくとぼくが出逢うよ」の部分、最高。そして「想いは夜の羽根のように濡れて/ぼくときみは今夜こんなところにいる/青白い魂で燃える季節待つ」って歌詞よ……100点満点中100,000点。
2006年/2016年までの時間を横に長い紙のようなものだとして、それを山折りだって谷折りだって構わないからとにかく半分に折るとする。その両端が重なっているのが「BGM」で演じられていた時点。折り目になっている部分は、2011年。劇中で「地震」「震災」の言葉が使われたのはドモホルンリンクルが恋人について話す場面だけだったと記憶している。
けれど、2016年に訪れた占い店での繭子さんの不在、それに対しての泡之助・BBQの反応、小学生のままのMC聞こえる……そういう要素から「折り目」をあらためて感じた。
多分一番泣いたのは繭子さんがMC聞こえるを占っていたところだろうな。繭子さんいい人すぎる。愛は祈らない畑。
好きなシーンがいくつもあるので挙げきれないのだけれど、好きになった瞬間について話す泡之助とBBQ、希海に関係性を問われた時の泡之助とBBQの返答、泡之助にBBQとの関係性を問う繭子さん、地中で””詰む””金魚すくい、想像上の午前二時と未来の自分について話す永井、それからラストシーン。
いい作品だった……今まで尻込みしてたけれど、もっと演劇を観に行きたい。
Thumbnail:ロロ BGM
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