Netflixで配信中の『サバイブ・ザ・ワイルド』(Outlast)が怖くて面白い。ディスカバリーチャンネルで作られているようなサバイバル生活番組を目的に観たのだが、蓋を開けてみたら、極寒のアラスカで行われる物理攻撃ありのライアーゲームだった。
黄金伝説の「無人島0円生活」に無かった暗黒面が全て描き出されている。利己心が究極までドライブして倫理が終わってしまう様子、そしてその境地に至った人間の考えとはいかなるものかを知れる。リアリティ番組とされてはいるのだが、「頼むから脚本存在してくれ」と思ってしまうほど。
『サバイブ・ザ・ワイルド』の概要とルール
アラスカの過酷な大自然の中で、16人の挑戦者たちが高額賞金を目指してサバイバル勝負。一匹オオカミ気質の参加者たちに与えられた唯一のルール。それは、必ずチームで集団行動することだった。 /引用:Netflix
- 極寒のアラスカで4人1組のチームがサバイバル生活をする
- 最後まで残ったチームが勝利、賞金は100万ドルを手にする
- 拠点を張るエリアは決められているが、行き来は自由
- 物資は寝袋やハチェット、タープ、応急治療キットなど必要最低限のもののみ(食料・水などは自給自足)
- 定期的にヘリコプターからミッションが記載された小包が投下される
- ミッションを達成したチームには大きな報酬がもたらされる
- 照明弾を打ち上げると脱落 メンバーが欠けてもチームに最低2人在籍しているなら続行可能
- チームメンバーが抜けて1人になった場合、他のチームに属さなければ強制脱落
- チームは個人の判断で自由に移動可能
最後のルール、「チームは個人の判断で自由に移動可能」がかなりいやらしい。全員が内通や裏切りを絶えず警戒しているので、チームの雰囲気が悪くなるのである。ただでさえ食料も水もない状況なので、勘繰りがなおひどくなっていた。「このルール考えた人、絶対いいデスゲーム作れるじゃん」と思ったが、実際問題この番組はほぼデスゲームです。参加者たちもしたたかで、他チームの特定のメンバーと密に連携を取り合い特定のチームを潰そうとしたり、自分の身の安全を保証してもらったりする。
「拠点を張るエリアが決められている」というルールも曲者。A・B・C・Dと4組のチームがあるのだけれど、A・BとC・Dの拠点エリアの間には川が横たわっている。そのため地政学的な力が働き、川を挟んで結託し、「まずお互いの此岸のチームを潰しましょう、そのあと正々堂々対決ね!」みたいな会話が発生していた。
そしてなんと言ってもアラスカの自然の強大であること。寒いし湿気すごくて火点かないし食べ物ないし熊うじゃうじゃ居るしで、心得がある人だとしても容易に生活できそうにない。のだが、なんと今回の参加者はInstagramの広告を見て応募してきた人々である。その道のプロはおらず、ヨガ講師やら私立探偵やら建設作業員やらが「自然好きだし行けるっしょ、お金欲しいし」で来ているのである。知識があるメンバーも居るので最低限の生活はなんとか成り立つのだが……
(ネタバレなし感想)卑怯な人間が勝つゲーム?
ネタバレなしと記しているけれど内容には軽く触れるので、嫌な方はすぐにNetflixのページに飛んでエピソード1を視聴してください。全8話で1話が30分弱なので、カロリーに反してすぐ観終わるはず。繰り返しにはなるけれど、完全ネタバレなしで紹介するならこの番組は「極寒のアラスカで行われる物理攻撃ありのライアーゲーム」です。
先述の通り「ライアーゲーム」要素のひとつに、チームが自由に移動可能な点が挙げられる。人数が少なくなったチームは標的にされ、さまざまな妨害工作を受ける。食物の採集や拠点の整備、火の番に割くリソースが失われ、どんどんジリ貧になっていく。弱いチームを捨て、強いチームに降る選択を採るのは、弱肉強食の世界では当たり前のことだ。
そもそもチームの組み方にも悪意がある。初対面のメンバーをひとところに集め、「はいそれじゃあ4人組作ってくださ〜い!」で組んでいるのである。こういうの、嫌な思い出がたくさんあるな。とまれかうまれ即席チームを組み、そして案の定仲違いする。
あらすじにもあった通り、参加者は一筋縄ではいかない一匹狼気質が多い。ふらっと一人で行動するなんてのはかわいい方で、面と向かって「リーダーぶってるのが気に入らない」「口調に気をつけろ」「俺に指図するな」と言い放つ剛の者ばかりである。
そら上手く行かんわ……と思っていたのだが、最初のうちは比較的真っ当にサバイバルをやっていた。川縁の貝や自生しているベリーを集め、リスを捕らえる罠を設置し、タープを広げて拠点を整備する。厳しい生活ではあるが、これは全き「サバイバル」である……
そう思っていたのだが、あるチームが他のチームに「攻撃」したことで状況は一変する。その「攻撃」の内容があまりにもひどいことから、「いや、それはヤバいだろ」「人じゃない 倫理もへったくれもない」「ねえ待ってゲーム変わっちゃったんだけど」と参加者たちはドン引き。しかし「攻撃」を仕掛けたチームは「このゲームは一番卑怯な人間が勝つ」と満足げに次の計画を語る。
▼この赤文字テキストをClick/Tapで「攻撃」の内容が確認できます。どのチームの誰が、は記しておらず、なにをやったかだけ書いています。
他チームの拠点に行って寝袋を根こそぎ盗んだ。極寒のアラスカで寝袋なしでの生活がいかに苦しいかは参加している当人たちが分かっているはずなのだが……だからこそ奪ったのかもしれない。なんなら自分達は寝袋を二重にして「昨日はよく寝れた」「なんなら汗かいちゃった」などとコメント。恐ろしすぎる。
この辺りからよりいっそう疑心暗鬼が強まり、拠点を見張る必要が出てくるなどの実害も出てしまう。もうおしまいです。
とにかくサバイバルをしていれば報われると考えていたメンバーからすると、この攻撃は許し難いもの。倫理観の高い人たちは「もうこの馬鹿げた戦いから降りたい」とバガボンドの辻風公平のような弱音を吐く。
▲「紅く美しく死ね……」と威勢の良かった時はどこへやら
それでも妨害は止まない。あるメンバーが新たな「攻撃」を仕掛けているのを他のメンバーに目撃され、口論になった時のやりとりがとても印象的。
– There is no law here.(ここに法はないんだよ)
– Yes,there is! This is America!(あるよ! ここアメリカだよ!?)
– No, we’re in the middle of Alaska.(違うけど? アラスカだけど?)
▲This is America……
全編鑑賞後、『サバイブ・ザ・ワイルド』の感想ツイートを漁ったのだけれど、やはりこの暴挙に出たメンバーには非難が集まっている。「卑劣な人間」「こいつらはマジのゴミ(“absolute garbage”)」「1話見るごとにこいつらがクマに食われてくれればいいのにって思ってた」など。自分自身はもう怖すぎて感情が追いつかなかったのだが、以下のツイート群の視点には納得がいった。ツリーにネタバレが含まれるので、ぜひ鑑賞後にご覧ください。
なんも考えが整理されてるわけではないだけど、Netflixの「サバイブ・ザ・ワイルド」がめちゃくちゃ怖かったという話をダラダラ書く↓https://t.co/O3BeSWDNDr
— カワウソ祭 (@otter_fes) March 19, 2023
観ている間ずっと参加者の体調面が心配だった。し、実際体調を崩すメンバーも多数。重篤な問題も出てくる。とはいえ、「サバイバル番組」なのでその辺りの塩梅は難しいのだろうな。
(ネタバレあり感想)Brilliant Jerkの行く末
ここからネタバレがあります。このテキストをClick/Tapで展開します。
ハビエル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! おれ悔しいよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
典型的な「有能で嫌なやつ」(Netflix風にいうと”Brilliant Jerk”)だったハビエルが主人公になりかけて、しかし道が閉ざされていたのが悲しかった。Aチームの卑劣な行いを見て憤慨した上で、それでも戦う意志を見せた彼も、戦いの螺旋から降りたブライアン、ドーン、ジョエルも尊い。あとはCチームのセスが終始冷静で推しだった。
総合的に見れば戦力差を判断してチームを鞍替えしたポールが正解だった。しかしわざわざカニカゴを持っていったのはどうなんだろう。ジャスティンをチームから拒んだ理由である「破壊工作」に当たらないのか? あとハビエルを拒んだの許せないかもしれない!!!!!!!
ジルとアンバーが焼け落ちたBチームの拠点を見て「運良くこの中に(ハビエルが)居るといいけど」と言ったのが本当に怖くて一時停止してしまった。正直胸糞悪かったが、この作品はあくまで「リアリティ番組」なので、Aチームの面々に対してSNSで罵詈雑言を浴びせていいわけではない。こんな当たり前のことを書かなきゃいけないのは嫌だが。だけどジャスティンとは一緒に仕事したくない。いつまでイカダ作ってるんだお前。おれは納期意識がちゃんとしてない人とは仕事はできません。Interior Design MastersとかDrink Mastersとか観て勉強してください。あと尻出すな。
しかしカロリーの高い番組だった。番組に出ている人の摂取カロリーは少ないのに。
(追記)出演者のInstagram見たらまだ普通に悪口を言い合っていてやっぱり怖かった。まだ怖がらせてくれるのかこの番組は。
Thumnail & Images :Netflix
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