PCR検査を受けた日のこと

雑記

流行病に罹り、平日のほとんどを床に臥して過ごした。熱を発したのは火曜日の朝のことだった。頭がすこしばかりぼうわあっ&きるきるっとする(熱が出る時はたいていこんな感じ)ので、体温を測ってみたら37.1℃。「あら微熱」と思っていたら、あれよあれよと言う間に38℃半ばまで熱が駆け上がってきたのであった。その日中にPCR検査を受けられるクリニックを予約し、上司にその旨を伝え半休を取得。はんぶん気絶するようにして眠った。

Alexaのアラーム音で目が醒める。ひどい盗汗を掻いている。シーツに残った汗染みを見て、自分の影だけ寝ているようだなと思った。頭は重いし、顔の表面がぬくすぎる。やかましいAlexaを止めるために声を発そうとするのだが、全く出ない。喉の奥に吸音性の膿が溜まって、震わせた声帯が発した「Alexa、アラーム止めて」を全て首の中でかき消してしまったようである。心底腹が立ったので、 Alexaの電源をプラグごと抜き去る。シャワーを浴びる時間もないのでとっとと着替えだけ済ませた。

寝る前はそうではなかったのだが、いよいよ咳と喉の痛みが猛威を振るいはじめる。幸い、息苦しさはない。クリニックまでの道中をひーこらひーこら進む。予約が取れたのは家からも程近い住宅街の中にあるクリニックだった。入り口に「発熱患者様」と書かれた衝立が見えた。屋外での検査となるようだ。衝立の隣に、我が物顔でシルバーのセルシオが停まっていた。検査の様子を周囲の住民に見られないための配慮だったのかもしれないが、それにしてもふてぶてしいセルシオであるなと感じた。「着いたら電話してください」と言われていたのを思い出し、スマートフォンを取り出す。

担当してくれたのは全身ビニール(?)に包まれた女性だった。「咳は出ますか?」「喉痛いです?」「熱は何度?」「持病ある?」と徐々に敬語が失われていく過程が楽しめる問診の後、PCR検査を行った。指示通りすこし上を向き口を半開きにして、綿棒では鼻の奥を拭われている間はなんだか情けなかった。終わった後に女性に「上手でしたよ」と言われ、「綿棒で鼻の奥の拭われるのが上手と言われましても……」と持ち前の卑屈ぶりも発揮したのだが、何しろ体調が悪いので仕方がない。検査結果が出るまで2、3日かかるとのことである。カロナールと桔梗湯を5日分処方された。

薬局から帰り、シャワーを浴びる。何か食わねばと思ったが、すぐに食べられるものが昨日作った豚軟骨のカレー煮しかない。どうしてこう喉に優しくないものしか残っていないのかと怒りを禁じ得ないが、とりあえず温める。スープ部分を口に含むと、けんとしたカレー味が広がった。どうやら味覚は残っている。が、嚥下する際の痛みが激しい。とてもではないが豚の軟骨なんて食せないとは分かっていながら、齧り付いてみる。そこに地獄を見た。

布団にくるまりながら、感染者数を調べてみる。東京都で1万4445人だった。果たして自分は何万分の1になるのかしらんと考えながら、その身体は悪寒でひどく震えていた。両のこめかみあたりで、顔を真っ赤にした小人がリューズ的な何かを懸命に動かしてゼンマイを巻いている。どんどん目を開けるのが難くなっていく。ははあこのゼンマイは瞼と連動しているのだなと分かった時にはもう眠っていた。


▲その後自分の咳で起きた時(午前1時)に測った熱 しんどいですね

▼後日談
コロナになってだいたい2週間が経った

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