川上弘美のおすすめ本をまとめる|恋愛小説・SFっぽい作品

突として川上弘美のおすすめの作品をご紹介。東京グラフィティという雑誌で川上弘美のおすすめ作品を紹介する機会をいただいたりもしたのですが、まだまだ話せることはたくさんあります。あるんです。


▲3作品ほど紹介しています


▲家にある川上弘美作品 実家にある本や人に貸している本があるので数は少ないですが、たぶん全部読んでいる 『七夜物語』の上だけないの何?

話し足りないものも含めて、川上弘美の好きな作品をいくつか紹介したいと思います。なおリンクはほとんどAmazonアソシエイトとなっております。Kindleでも読めたりするんだね。テクノロジーって便利〜!

川上弘美について

川上弘美は1958年生の小説家。これまでに、芥川賞(『蛇を踏む』)・谷崎潤一郎賞(『センセイの鞄』)・泉鏡花文学賞(『大きな鳥にさらわれないよう』)など多くの賞を獲っています。2019年には紫綬褒章を受賞しているほか、各種文学賞の選考委員も務めています。
お茶の水女子大学でウニの生殖について研究したのち、ニューウェーブSF雑誌『季刊NW-SF』を発行するNW-SF社に勤務。その後、生物教師になり、結婚・退職。退職してから8年後の1994年、デビュー作の『神様』がパスカル短編文学新人賞を受賞しました。
『センセイの鞄』『ニシノユキヒコの恋と冒険』など、映像化された恋愛小説が世に知られています。が、学生時代はSF研究会に所属していました。『大きな鳥にさらわれないよう』『某』などの作品でもSFちっくな描写が多数見られます。また、最近は『伊勢物語』の現代語訳『三度目の恋』に代表されるような古典系の作品も多く執筆中。非常に幅の広い作家です。すごいんだぞ。

SFっぽい川上弘美の作品3つ

個人的に、川上弘美はSFもの・マジックリアリズムっぽい描写がある作品が面白いと思っています。ほんとだよ。

大きな鳥にさらわれないよう

あらすじ
遠い未来、滅亡の危機に瀕した人類は、遺伝子が進化する可能性に賭けた! 人類を小さなグループに分け、それぞれの環境に適した異なる進化を促すことで種の存続を図ったのである。それぞれのグループを監視する「見守り」や「母」の存在、独自に進化した人類、クローン、セックス、ポストアポカリプス……川上弘美が描く「新しい神話」。

川上弘美の最高傑作だと思っています。本当にすごいんだこの作品! たいていのことはフラスコ飯店に掲載していただいている川上弘美『某』のレビューで書いてしまっているのですが、あらためて。


(※上の記事では物語の面白いところまで踏み込んでいるので注意。この記事ではネタバレ的な要素は可能な限り省いています)

『なめらかで熱くて甘苦しくて』(2013)に収録されている短編「aer」で、川上弘美はこんなふうに書いています。太字はぼくによる装飾。

そのしろものはとてもやわらかくて垢がたまりやすくて熱くてよくわめくものだった。しろものが出てきた時は苦しくていたくてずるっとしていて時々は途中で眠ってしまってようやく出てきたらあんまり紫色でみにくいのでがっかりした。

なんとなく分かるかもしれませんが、この文章における「しろもの」とは自分が産んだ赤ちゃんのことなんですね。「実はこれは人ではなくって〜」みたいなどんでん返しもない。普通に人間の赤ちゃん。「しろもの」を母として育て、「しろもの」が大人になり、自らの元を離れていく様子を描いた短編です。

自分の子どもを「しろもの」と呼ぶ語り部。なんだか人間らしくないというか、ロボットやアンドロイドが「親……? 製造元のことですか?」「私はロボットなので恋愛は分かりません(この……胸に感じるあたたかいものは……なんだ……!?)」と話すあの感じに似ているな、と思っていたら『大きな鳥にさらわれないよう』(2016)の登場です! 

あらすじにもある通り、この作品には「母」と呼ばれるキャラクタが登場します。小さなグループに分かれ、独自の進化を遂げた人類たちを観測する「見守り」と呼ばれる人たちの育成・管理を「母」が担っているんですね。つまりは、「母」も人類を観測している。子どもを「しろもの」と呼びながら育てる「母」のまなざしのエッセンスがここにも流れているとは思わんですか!? 

そして、「しろもの」たち、つまりはまなざされる「見守り」や進化した人類の描写も秀逸です。ある者は光合成ができるようになったり、ある者は動物と同化できるようになったりしている。ていうか、そもそも「見守り」のシステムってどう構築されたんだっけ? 「滅亡」はどうもたらされたんだっけ? という物語の大枠もしっかり説明されています。どこを読んでも面白い作品。は〜ネタバレしたい! 読んだら話しましょう。

あらすじ
ある日突然この世の中に出現する謎の生物「某」(ぼう)。身体的には人間だが、突然生まれたものなので持ち合わせるものがない。途方に暮れていたところ、病院に受け入れられ、なんやかんやで人間として生活することに。
しかし、某には妙な性質が。時折、「変化」してしまうのである。年齢、染色体、容姿、その他諸々が一気に変わる。「変化」する度に名を変えて生きねばならない。記憶は保っているが、身体が変わるので考え方から何から全て変わってしまう。同じ某の仲間と出会い、人を愛し、病院から抜け出しながらも、変化することを繰り返す。アイデンティティを揺さぶる一作。

『大きな鳥にさらわれないよう』のイズムが引き継がれている作品。個人的には、『大きな鳥にさらわれないよう』→『某』の順に読むのがいいんじゃないかなと。
あらすじの通り、主人公の某は定期的に身体が変容します。身体だけではなく、性格やものの考え方ごと変わるので、例えば性的な事物に興味がなかった女性からセックスのことばかり考えている男性になったりもします。そのような変化を、文体を使い分けてしっかり描いているのが好きなポイント。表紙(イラストレーターの三好愛さん作)がキュートなのも、好きポイント加算対象です。
『大きな鳥にさらわれないよう』よりは前後の繋がりが強いですが、短編集として読めなくもない。「あと1回変化するまで読もう……」みたいな読書もできるかもしれません。僕は「あと1回……」が終わらず一気に読みましたけども。

蛇を踏む

芥川賞の受賞作となった「蛇を踏む」を含む3作を収録した短編集。「蛇を踏む」は藪で踏んだ蛇が老婆になって家に棲みつく話。川上弘美的変身譚の最初の作品で、これより後の作品でも何かと色々なものが変身します。『某』も見方によっては変身譚。

ところで、川上弘美作品は書き出しが良いです。収録作の「消える」の書き出しは、「このごろずいぶんよく消える。」。何が消えたかというと、上の兄。「え〜どうしてどうして〜?」と思っているうちに、あれよあれよと物語の引力に持っていかれます。

ぼくが一番好きな「惜夜記」の書き出しも引用しておきます。「背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。」。短い作品なので、詳しいストーリーはもう、読んでいただけると。

川上弘美の恋愛小説2つ

川上弘美で最も有名な作品といえば、おそらく映像化されている『ニシノユキヒコの恋と冒険』や『センセイの鞄』でしょう。まだ読んでないならこの2作品から読むのがおすすめ。

ニシノユキヒコの恋と冒険

あらすじ
仕事ができ、見目が麗しく、セックスもうまい。女性には一も二もなく優しいので、とんでもなくモテる男がいる。名はニシノユキヒコ。関わりあった女性の心を乱し続ける罪深い男だが、なぜかいつも女性の方から彼のもとを離れていく。ニシノユキヒコと交情あった十人の女性たちを描く連作短編集。

先述の通り、『ニシノユキヒコの恋と冒険』は竹野内豊主演で映画化されています。ので、以降ニシノユキヒコは竹野内豊だと思っていただいても大丈夫。
この作品は、ニシノユキヒコと親密になった女性たちの視点で語られる方式で進みます。1編ごとに語り部が変わるので、短編集としても読める。中学生の頃のニシノユキヒコから50代に差し掛かったニシノユキヒコまで、あらゆるニシノユキヒコが語られます。
文庫版のあとがきでは、小説家の藤野千夜がニシノユキヒコのことを「私たちがつかみそこねた愛の名前」とまで表現しています。それくらいかっこよくて、スマートで、ずぶずぶに優しく、そして手に入れられない男として描写されているんです。私たちがつかみそこねた愛、ニシノユキヒコ……
川上弘美を未読の方にはいつもこの作品をおすすめしています。読みやすいので。

センセイの鞄

あらすじ
居酒屋で高校時代の古文教師、松本春綱と再開した大町月子。なんやかんやあって親密になっていき、美術館に行ったり旅行に行ったり酒を飲んだりする話。

あらすじが薄いな。でもほんとにこういう話。川上弘美作品でハラハラするということはないのだけれど、長編の中でもしずしずと読める物語だと思います。「元教え子と元教師の恋」と書けばそれっぽく見えるのだけれども、そこまで「禁断の恋」って感じでもない。主人公の月子さんはアラフォー、松本先生はもうすぐ70に手が届かんという歳だしね……

いったんこれまで。また熱が出たら追記します。とにかく川上弘美は面白いので、読んでください。

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